カジノを含む統合型リゾート(IR)を整備するための推進法案が今月6日、衆議院本会議で可決され、参議院に送られました。カジノ解禁に対する最大の懸念材料として反対派から提出されているのが、ギャンブル依存の問題です。インターネット上では、カジノそのものについての議論以上にギャンブル依存の問題について、それぞれの立場から多くの意見が提出され、モニターしているだけでたいへん勉強になりました。
合法的な賭博としてカジノが登場すれば、それとセットでギャンブル依存の対策が登場することになります。これからギャンブル依存の問題について、本格的な議論が始まろうとしています。
ところで、これまでギャンブル依存の問題には、いくつかの「ややこしさ」があって、活発な議論が行われにくい状況にあったと思っています。それはなぜか。私なりに整理してみます。
まず前提として、これまで日本のギャンブルへの依存問題は、パチンコ・パチスロへの依存問題に集中していたという事実があります。パチンコ・パチスロが「ギャンブル」なのかどうかについての議論をいったん棚上げするとして、参加人口の規模でも投資金額の規模でも、パチンコ産業が圧倒的なシェアを占めてきたためです。また、競馬、競輪、競艇、オートレースと分かれ、監督官庁も設置主体もバラバラな公営競技とは違ってパチンコ・パチスロ産業は、警察庁を監督官庁として風営法により規定され、さらに業界団体が活発に活動しているという、産業としての一体性があります。そのため、日本においてこれまでギャンブル依存の問題に向かい合ってきたのは、パチンコ産業であると言えるでしょう。ここからは、これまでの日本のギャンブル依存の問題を引き受けざるを得なかったパチンコ・パチスロへの依存問題に特定して整理してみます。
パチンコ・パチスロへの依存問題についての「ややこしさ」のひとつには、「立場表明」が求められがちだという状況があります。もうひとつの「ややこしさ」は、この問題について発言し、あるいは関わる人たちの専門分野や活動分野がさまざまであり、対話を成立させる共通言語が生まれにくかったということがあります。
まず、「立場表明」について。発言者あるいは関与者に求められる主な「立場表明」には、@「パチンコは、刑法が禁じる『賭博』である/ない」という法解釈的な立場、A「パチンコへの依存は、『依存症』という病気(疾病)である/ない」という医療診療の見地によって分かれる立場、B「パチンコは社会にとって必要な娯楽である/ない」を問い、パチンコそのものの存在を許容するのか、あるいは社会から排除すべきと考えるのかという社会思想的な立場の3つがあります。これらの立場を鮮明にした方が議論はスムーズに始められますが、反対派からの攻撃にさらされる可能性が生まれます。
次に発言者や関与者の専門分野や活動分野について。主な専門分野や活動分野には、@いわゆる「ギャンブル依存」(ギャンブリング障害)を診療する精神医療の専門家、すなわち精神科医、A精神保健福祉士や社会福祉士といった国家資格を得るための方法論に準拠する行政や民間の援助職者、Bギャンブル依存の問題に先進的に取り組んできたGAやギャマノンに代表される相互援助グループや家族会など市民団体、C独自の対策を行ってきたパチンコ業界の4つがあります。専門分野や活動分野が違えば、世界観や言語体系、前提となる知識が異なるために、生産的な対話は生まれにくい状況となりがちです。
推進法が成立すれば、来年の1年をかけて、具体的な実施法が議論されることになります。そこでは当然、特に重要なテーマとして、ギャンブル依存への対策が焦点となります。議論の場では、カジノだけでなく、既存のパチンコ・パチスロや公営競技への依存対策も採りあげられることになるでしょう。この機会に、これまでのギャンブル依存の問題が抱えていた「ややこしさ」が解消されて、問題を抱える人たちに寄り添った議論が積み重ねられることを期待したいと思います。
知的情報サービスセンター 平田