カジノを含むIR(特定複合観光施設区域)推進法が15日午前1時に成立してからの2週間弱というわずかな期間に、政府は「ギャンブル依存症」対策の骨子を急ピッチでまとめています。この年末から来年初めにかけてが、パチンコ産業の未来を決める重要な時期であると考えます。このブログではその理由を述べます。
まず前提として確認しておきたいことが2点あります。現在議論されている「ギャンブル依存症」の範囲には、カジノの「依存症」対策だけでなく、競馬、競輪、競艇などの公営競技と、パチンコ・パチスロなどの遊技への「依存症」対策が含まれているということです。このことは、「ギャンブル依存症」対策への取り組みについて言及したIR推進法の附帯決議のなかで、「カジノにとどまらず、他のギャンブル・遊技等に起因する依存症を含め、ギャンブル等依存症対策に関する国の取組を抜本的に強化する」と書かれています。この表現は文脈的に、これまで風営法により規制されてきた遊技産業の監督官庁は警察庁でしたが、今後はパチンコ産業への「依存症」についても所管するであろう厚生労働省など他の省庁が監督指導する可能性が高いことを意味しています。そのため、パチンコ産業にとってカジノに関する政策議論は、他人事ではなく直接関係することになる重要な事案です。その原型となる骨子が2017年の仕事初めまでに固まろうとしています(すでにある程度、固まっています)。
次に確認しておきたい前提が、「ギャンブル依存症」対策の策定がIR実施法案の議論よりも優先されているということです。というのも、IR推進法の審議の過程で連立与党である公明党からの一致した賛同を得られなかったこともあり、まずは公明党が求める「ギャンブル依存症」対策を強力に推進する必要に迫られているのです。26日には「ギャンブル依存症」対策をテーマとした関係閣僚会議を開きました。また政府は年明け早々にも省庁横断組織の「ギャンブル依存症等対策室(仮称)」を設置するという情報も出ています。
この政府が描くシナリオのまま事態が進行すれば、厚生労働省などにより定められた一元的な「ギャンブル依存症」対策の制度的な網が、遠からずパチンコ産業にもかけられることになるでしょう。その時期は、カジノの運営開始よりも先行すると予想されます。これまで風営法にある意味「守られて」、産業としての独立性を得てきたパチンコ産業が、はじめてカジノや公営競技と同じ俎上に載せられることになります。そしてこの流れは、「ギャンブル依存症」だけでなく、ゆくゆくは営業権の許認可制度(完全に合法化され、参入障壁だった風営法による縛りの消失)や税制(「カジノ税」と同じ「ギャンブル税」の一形態としての「パチンコ税」創出、つまりは税負担の強化)、そして機械や機器への規制(カジノのスロットマシンと同じ一元的な新基準の、かつて遊技機と呼ばれていた機器への適用)にまで及ぶ可能性が高い。
パチンコ産業の「ギャンブル依存症」対策に絞れば、いまカジノの法制化にともなって新たな制度的な網がかけられようとしているのは、これまでに十分な対策を行ってきたとは政府や社会から見なされていないことが原因です。象徴的な数字が「536万人」という日本の「ギャンブル依存症」患者数です。この数字は2年以上も前の2014年8月にパチスロが主犯であると指摘されて全国紙で報じられました。ですがパチンコ産業は、それを否定する作業を怠りました。そのツケがまわってきました。カジノ推進法についての議論では、日本社会の民意を代弁したマスコミと各政党が、国会や政府に手厚い「ギャンブル依存症」対策を求めました。これまでの対策は不十分であったという社会の憤りや不安が表面化し噴出したのです。
業界独自の対策が評価されて、これからの政策に活かされるという余地がこの段階になってもまだ残っているのか、わかりません。ですが、いま現在というタイミングは、まさに政策決定の下絵が描かれている段階です。ここでパチンコ産業が、自浄作用や産業としての自主性・自律性を社会や政府に示すことができるかどうかは、今後の産業の未来に決定的な影響を与えると考えています。
知的情報サービスセンター 平田