ぱちんこへの依存(のめり込み、遊技障害)の問題を巡っては、事態が現在進行形で流動的に動いている最中であり、従来あったような業界の閉鎖的な枠組みを越えてさまざまな主体が「語る権利」を確保しようと争っているという印象を受けます。そのためこのブログには、敢えてその渦中を避けて、「ぱちんこ」とも「依存」ともまったく関係のないテーマを挟んでみます。
最近「けものフレンズ」というコンテンツを、ツイッターで知りました。最近のツイッターでは、「君は○○が得意なフレンズなんだね!」という、「けものフレンズ」に特徴的なフレーズが溢れ、ほかにも「すごーい!」や「たーのしー!」といった感嘆の感情を表す短いフレーズが、よく見られるようになっています。調べてみると、このコンテンツはメディアミックス作品であり、先行してスマホ向けゲーム版とコミック版が発表されていました。ブレイクのきっかけとなったテレビアニメ版は今年1月からのスタート。ここまでアニメ版がヒットするとは想定していなかった模様で、ゲーム版は昨年12月にサービスを終了していました(再開の噂も)。アニメ版は現在7話まですすんでいます。沖縄では残念ながら地上波での放送は無く、インターネットやケーブル回線で視聴する必要があります。
その人気の理由を分析した論考が、すでにいくつも発表されています。最大公約数的にまとめると、2つの要因に集約できそうです。まず、思考レベルが動物並みであることをうかがわせるような、キャッチ―な発話です。登場キャラのほとんどが人間的な少女の外観となった動物たち(フレンズ)による発話であるため、人間的なまわりくどさや、状況的、説明的な配慮から自由です。そのため、単純な短いセリフがほとんどです。また、フレンズたちのセリフは、感情をストレートに表現しているというだけでなく、基本的にあらゆる現象に対して肯定的、ポジティブです。フレンズたちの会話は、動物園で動物を見ているときのような、ほんわかとした気持ちにしてくれます。そしてセリフには、ツイッターでのリピートに見られるように、中毒性があります。フレンズはまず、別のフレンズを承認し、褒めます。「君は○○が得意なフレンズなんだね!」という肯定のセンテンス、あるいは承認のセンテンスは、便利なネットスラングとしてすでに定着しました。「脳が溶ける」という評価が、この作品をうまく形容しているでしょう。
社会現象となった2つ目の理由として挙げられるのが、1つ目とは真逆な理由となるのですが、作品の随所にダークな雰囲気が漂い、不穏な影が差し込むことです。舞台である「ジャパリパーク」についての謎を、記憶を失った「カバンちゃん」という作中に唯一登場するヒト(人間)とともに読み解いていくことが、基本的なストーリーとなっています。「カバンちゃん」以外のフレンズにはまったく反応しないロボットの「ラッキービースト」(「ボス」と呼ばれている)の存在や、謎が封印されているというパーク内の「図書館」など、世界観は謎に満ちています。また不穏な影としては、フレンズを食べてしまうという「セルリアン」という正体不明の存在や、「カバンちゃん」以外の人類が何らかのパンデミックによって滅亡してしまった可能性がほのめかされていることなどがあります。また2話目以降のエンディングでは、これまでに閉園し廃墟となった世界の遊園地のモノクロ画像が延々と流れるようになり、視聴者に衝撃を与えました。
どこまでも能天気で陽気なメインキャラクター「サーバルちゃん」をはじめとするフレンズと、謎と闇に覆われた世界観のギャップが、このアニメが多くの人を惹きつけている魅力と言えそうです。「すごーい!」と、「サーバルちゃん」と同じテンションを維持して、萌えキャラだらけのユートピアとして「ジャパリパーク」をたのしむことも、人類滅亡後のディストピアとして「ジャパリパーク」に残された謎やヒントを拾い集めていくことも可能な仕掛けになっています。明るい要素と暗い要素の陰陽を組み合わせるという手法は、少年少女が登場するロボットアニメに青春期の孤独や体制間戦争のリアル、そして絶対的な死の影を持ち込んだ「機動戦士ガンダム」、さらに宗教や狂気の要素を加えた「新世紀エヴァンゲリオン」、そしてキュートな魔法少女たちに魔女への転生や永遠に繰り返される輪廻といった宿命を負わせた「魔法少女まどか☆マギカ」など、これまでにも繰り返されており、近年の人気アニメに共通する物語の構造であると言えそうです。
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陰と陽を組み合わせた、陽気であると同時にスリリングでミステリアスだというストーリー以外にも、「けものフレンズ」の人気の理由をさらにもう1点、付け加えることができそうです。それは、「カバンちゃん」以外の登場キャラクターがそれぞれ、「○○が得意」という属性を持つ「けもの」であるということです。ネットでキャッチ―なセンテンスとして「君は○○が得意なフレンズなんだね!」が反復されているということが、登場キャラクターが「けもの」であることが人気の根源にあるということを象徴的に示しています。キャラクターとしての「けもの」はブームとなっており、このブームは「属性」によるキャラクター分類と親和性があります。
まず「けもの/ケモノ/獣」ブームについて振り返っておきます。「けもの」的な要素を持つキャラクターを愛好する人たちを「ケモナー」と呼ぶそうです。「ケモナー」にも幅があり、その愛好の対象は、限りなく獣そのままのキャラから、ヒトにネコ耳を付けただけのキャラ(耳キャラ)や着ぐるみキャラといった限りなくヒトに近いキャラまで、擬人化度、あるいはケモノ度(ケモ度)にグラデーションがあります。2012年からはケモナー向けのコミケ「けもケット」が、また2013年からは「けもの」に関する総合イベント「JMoF(Japan Meeting of Furries)」がスタートしています。
萌えの心性(発動契機)における「属性」の重要性については、批評家の東浩紀が新書『動物化するポストモダン』で論じており、「属性」による萌え(嗜好)を「動物化」と呼んでいます。「けものフレンズ」で爆発した「ケモナー」ブームでは、キャラの「動物化」がメタファーではなく文字通りにキャラ=動物への萌えを発動させています。ここでは属性が、例えば「サーバルちゃん」のサーバルキャットといったマイナーな動物にまで細分化されている一方で、同時に「君は○○が得意なフレンズなんだね!」と単純化されます。
世界観ではポジティブなユートピアであると同時にネガティブなディストピア、萌えの記号/属性については動物の種類(綱/目/科/属/学名)にまで細分化されると同時に、「○○が得意」と単純化される―――このような双極性や意外性という仕掛けによって視聴者は、その世界観(意味世界)をより深く探究しようという気もちにさせられます。つまり、世界観への没入(のめり込み)という誘惑です。この仕掛けこそが「けものフレンズ」の人気の秘密ではないかと想像しています。
AGFJ 平田